「ちっちゃな王子さま」(新訳:星の王子さま)メルマガ配信プロジェクト

「星の王子さま」の邦題で知られる、Antoine de Saint-Exuperyの名作、"Le Petit Prince"を、独自に翻訳した「ちっちゃな王子さま」を、毎週少しずつお送りする、メールマガジンプロジェクト。是非登録を!

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 彼がいったいどこからやってきたのかを知るのには、長い時間がかかった。
 このちっちゃな王子さまときたら、ぼくにはやたらと質問をするくせに、ぼくの質問はまったく聞いちゃいないみたいだったんだ。それでも、なにかのひょうしにふとこぼれた言葉から、少しずつ少しずつ、すべては明らかになっていった。
 たとえば、彼がはじめてぼくの飛行機を見たとき(飛行機の絵は描かないでおこう。あいつはぼくには複雑すぎる)、ぼくに、こうたずねたんだ。
「そこにあるヤツはなに?」
「ヤツとか言うなよ。これは飛ぶんだぞ。これはね、飛行機だよ。ぼくの飛行機」
 ぼくは胸をはって、空を飛べるんだ、ってことを教えてやった。すると、彼はさけんだんだ。
「うそっ? じゃあじゃあ、君は、空から落っこちてきたの?」
「ああ」と、ぼくは答えた。
「あははははっ! そいつは、おっかしいや!」
 そう言って、ちっちゃな王子さまは、とてもかわらしい、はじけるような笑い声をあげて、ぼくをいらいらさせたんだ。ぼくは、ぼくのこの不運な境遇を、もっと深刻に受け止めてほしかったから。
 ところが彼は、つづけてこんなことを言ったんだ。
「そっかぁ、君も、空から来たんだねぇ。ところで、君が来たのはどの星から?」
 その瞬間、秘密につつまれた彼の存在に、さっとひとすじの光が射したような気がして、ぼくは大急ぎで質問した。
「ってことは君は、ほかの星から来たんだね?」
 やっぱり彼は答えなかった。ただ、ぼくの飛行機を見ながら、しずかに首を横にふるのだった。
「君が、それほど遠くから来たわけじゃないってことは確かだな……」
 そう言って、長いこと自分の空想の世界に没頭しちゃったようだった。それから、自分のポケットからぼくが描いたヒツジを取り出して、それを大事そうにみつめていたんだ。
 
 考えてもみてほしい。ちらりと見えた『ほかの星』とかいう話が、どれだけぼくの好奇心を刺激したことか!
 もちろんぼくは、そのことについてもっとくわしく知ろうと試みた。
「ねぇぼうや、君はどこから来たんだい? 君の言う、『ボクんち』ってのはいったいどこのこと? 君はぼくのヒツジを、どこに連れて行くんだい?」
 彼は考えこむようにちょっとだまったあと、こう答えたんだ。
「君がさ、箱もいっしょにくれてよかったよ。おかげで夜には、これを家として使えるもの」
「ああ、もちろんだとも。君がいい子にしているんだったら、昼間につないでおくためのロープもあげよう。それから杭もね」
 ところがその提案は、ちっちゃな王子さまのご機嫌をそこねちゃったようだった。
「つないでおく? 君は、おかしなことを言うね!」
「だって、つないでおかなかったらどこにでも行っちゃうだろ?」
 ぼくの言葉に、この子はまた、はじけるように笑った。
「いったいぜんたい、どこに行っちゃうっていうのさ?」
「どこにでも、だよ。たとえば、まっすぐ前とか……」
 するとちっちゃな王子さまは、急に思いつめた顔になって、こうつぶやいたんだ。
「遠くになんて、行けるもんか。ボクんちはほんとのほんとに、ちっちゃいんだから!」
 それからちょっとさびしそうに、こうつけくわえた。
「まっすぐ前にすすんだって、すごく遠くになんて、行けやしないんだ……」

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